↪︎これの続きものもどきです。読んだ方が中身が分かる
「お久しぶりです、えーっと、弁護士さんの、せんぱい? ……先輩からすれば、お久しぶりではないんでしょうか。それとも、私以上に時間が経っているのかな。私にも、ここの時間の流れはまだ分からないんですけど」 相変わらずの無機質な部屋だ。窓も電気も見当たらないのに妙に明るいのは、なんなのか。お話してくださいと言わんばかりに、椅子二つと机だけが置いてある。 前もそうだったが、ここに来させられている時は前後の記憶がまったくない。私はもともと記憶力がひどく悪いものの、ここまで完全に直前のことが抜け落ちている時はないはず。……はず、だ。 まあ、私の記憶力は置いておいて、私の七つか八つか上の先輩は難しそうな顔をしている。そんなに、難しいことだろうか。別に、閉じ込められてはいるけれど、多分記憶のないうちに出ていけるだろうし。もしかしたら、私が見ている夢なのかもしれないし。 「……俺はこんな部屋、もう来たくなかった。お前の顔も見たくない。落ち着いてるのおかしいだろ、気持ち悪いんだよこのクソアマ……。そもそもお前なんかと違って働いてて忙しいんだ、帰らせてくれ」 先輩は頭をぐしゃぐしゃとかきながら、椅子にも座らず立ち尽くしている。話し方は、私の知っている先輩よりも少し苦しげだった。息を吸って吐くのがへたくそ、というか、怖がっている、みたいな。この息の仕方を、私はよく知っている。私とおんなじ、ということだ。 前にこの部屋で会った先輩は、妙な倫理があって気持ちが悪かった。私が知っている、差別的で、合理主義者で、どうしようもなくひどい先輩じゃなかった。常識的で、人に気を遣ってしまう非合理性が透けて見えていて、まともで優しい男性だった。けれど、あれは困惑の末に生まれてしまった気持ちの悪い姿だったのだと思う。 だって、この部屋が二回目の先輩は、私が望む先輩だったから。 「そんなこと言わずに、座ってください。先輩、ちょっとだけ私とお話しましょう? 先輩の口の悪さが変わらなくって、私すっごく嬉しいです。弁護士さんなのに、品性を疑われちゃいますよ?」 私は思わず跳ねるように笑っては、先輩に向けて椅子を指差す。綺麗なスーツは腕を大きく動かしたせいかシワになっていて、なんとも色々なところが抜けているなと思った。 先輩は無言で私から目を逸らせば、音を立てて椅子を引いた。この部屋は音が妙に響くらしく、壁の素材がなんなのか気になってしまう。 乱暴に腰を下ろすその動作は、まるで自分の中に渦巻く恐怖や苛立ちを、その椅子に叩きつけているようだった。 「なんでお前はそんなに楽しそうなんだよ、だって、どうせ、お前は死んでるんだろ!? わざわざ夢に出てくんなよ、こんな空間夢じゃなきゃあり得ないだろ? 冬の海に勝手に飛び込む馬鹿だもんなお前!」 「……あははっ! あー、そうなんですか。先輩の中じゃ、ここは夢なんですね。……うん、確かに、夢って思った方が納得はいく場所かもしれません。———でもね、先輩。少なくとも、今の私はまだ生きているんですよ。生きてしまっています。まあ、先輩が弁護士さんになる時には死んでいますが。だから、今の私だけ見ててください」 「何言ってんのか意味わかんねえよ、もう、夢ってことにしとけよ馬鹿……。あー、初夢にお前なんか見たくなかった」 どうやら、先輩の方でも同じようにお正月の期間らしい。なんだかんだ年数が違うだけで同じ時間を過ごしているのかな、なんて思えば、やっぱり夢じゃないじゃないか! と声に出したくなってしまう。お正月の概念も先輩に教えてもらった私は、軽く微笑んで「私も先輩が初夢ですよ」と返す。 そうしたら「死ね」なんて言われてしまって、私が死ぬのを嫌がっている素振りを見せていたくせになあと笑ってしまうのだった。