私によく話しかけてくる変な先輩は、どうやら将来弁護士という立派なお仕事に就くらしい。不思議と驚くことが無かったのは、先輩が優秀な人なのは有名だったからなのか、私が弁護士という仕事に対して先輩向きだと思うくらいの偏見持ちだったからなのかはわからない。きっちりとしたスーツに包まれ、弁護士バッジがきらりと輝いていた。照明も窓もない部屋がどうして明るいのか、金属がなんの光を反射しているのかは私には分からない。  時間の流れが少しだけ狂った部屋で気まずそうな先輩を私は見つめる。……ふむ、どうやら私は人の顔の変化がわからないらしい。おそらく、彼は私が知っている姿の七つは上なのに、全くと言っていいほど違いがない。いや、そもそも先輩ってこんな顔だっけ? 私は先輩の顔すら覚えられていない気がしてきた。薄情、というやつなのだろうか。 「……すみません、ってか、———だよな……?」  びっくり。先輩が、まともな男性の顔をして「すみません」なんて! 私は少しショックだった。なんだ! 先輩はやはりこんな顔じゃなかった。よかった。私は正しかった。 「先輩がこんなにまともになっちゃったなんて、悲しいです。そうですよ。私は歳も頭のおかしさも変わらないですけれど」 「なんでこんな場所受け入れてんだよ……。お前とかてっきり死んだかと思ってたのに」 「んー、多分先輩が弁護士さんになる頃には死んでる気もします。だから、こんな砂時計の砂を混ぜちゃったみたいな部屋にいるんですよ」  まともな男性のフリをしたこの人は、黙ってしまった。こんな気持ちの悪い、妙な倫理観をどこで覚えてしまったのか。私の知る先輩なら、今生きてるんだから弱者もどきで遊ぶなと笑ってくれたはずなのに。 「俺は、お前が生きてて歳とってたらとかちょっと思ったよ、こんなおかしな部屋意味わかんねえし……」  目の前の男性は、珍しく顔を俯いては眉を下げた。こんな人、知らない。先輩は、私のことを異常みたいな顔しない。先輩は私が病気なんて心の底から信じてない。そうでしょ。なのに、なんでこんな素直な言葉を発してしまうのか!?  私はいますぐにでも、目の前の知らない人から逃げ出したかった。けれど、時計の針が折れ曲がった部屋には逃げ道なんてないのを私は知っていたので、早く先輩の頭もおかしくなりますようにと祈りながら頭を撫でてあげた。気持ちが悪いと心底嫌そうな顔で手を叩かれ、ああ、逃げ出さなくてよかったなと思った。