「そういえば、お前ってハタチ超えてんの?」 「ちょうど……そうですね、はい」  自分の年齢なんて普段意識していないから、改めて聞かれると即答できないものなのだなと思う。先輩は自分から聞いてきた割に、あまり興味がなさそうに「ふうん」と返して腕時計を見ている。成人も選挙権も、今じゃ十八歳に引き下げられたせいで二十歳の特別なんて酒と煙草くらいだろう。まあ、アルコールとの相性が最高に悪い睡眠薬を飲まないと眠ることすら出来ない私は、酒を飲んだことはまだないのだが。  二十歳になる前から酒を飲んでいる大学生なんて珍しくもないので、おそらく私のような人の方が珍しいのだと思う。……そういえば、成人年齢が引き下げられてしまったせいで未成年飲酒という言葉は使いにくくなってしまった気がする。こういった時代の変化によって、言葉も変動していくのかもしれない。 「二十歳未満飲酒って、言葉としてまとまりがないですよね」  つい思いついて漏れた言葉は、くだらないという顔をした先輩のため息で返事をされる。私の突飛な発言にはそろそろ慣れたようで、昔のように苛立って暴言を吐くこともないらしい。成人しているとか未成年だとかよりも、私はそこに人の成長を感じて感動してしまった。  少しだけ口角を上げた私を見て、先輩は気味が悪そうに眉をひそめた。 「未成年飲酒って普通に言えよ……そもそも大学生にもなって年齢気にしてるやついないだろ」 「年齢云々より法の問題な気がしますけど、その辺りは先輩もゆるいんですね」 「酔い潰れて持ち帰られるような馬鹿と違う、まともな飲み方してんだよ。俺はな」  酔い潰れる人って、どんな感じなんだろう。倒れるのかな、怒るとか? あまり想像がつかなくって、私は思いつく限りの行動を頭に浮かべてみる。ただ、それはどれも父親に似ていた。もしかしたら、お父さんはいつも酔っていたのかもしれない。家にいた時は、電源を落とすようにしてやり過ごしていたのでいつだって記憶が曖昧だった。記憶がないせいか、普通の家庭をしたことがないせいかは知らないが、私は家族が分からないし理解が出来ない。多分、今後もそう。  そう思うと、二十歳だとか成人だとか、なんだって私には意味の無いもののように見えてくる。 「まともな飲み方、教えて欲しいです。ゆっくり飲むとか、そういう感じですか?」 「……酔ってどっかの男と大失敗でもしたのか? アホらしいな」 「お酒飲んだこと自体ないです。んー、酔い潰れてる人しか見たことないんです、たぶん」  当たり前のように男性との接触が出てくるのは、彼を取り囲む人間の問題なのか、彼自身の問題なのか。私はそれを知る術もなければ、知る気すらない。先輩は異性に好かれるだろうから、酔った勢いはあんまりないのかなとは思う。 「酔い潰れてる人だけ? お前どんな飲み会行ってるんだよ」 「いえ、飲み会も行ったことないですよ。ただ私の知ってる大人……ええと、家族って言う方が分かりやすいのか。父親がね、そうだったので」 「へえ、所詮蛙の子は蛙ってことだな。お前も父親もろくでもないカスだ」  彼は心底馬鹿にするように口角を上げて、楽しそうにそう言った。きっと、こういう時の普通の反応といえば、怒ったり悲しんだりするのが相場なのだろう。 私は曖昧な記憶から、ひとつだけある記憶が蘇る。児童相談所の職員さんの言葉だった気がする。  ———お父さんは、育ててくれてるんだから良い人でしょう。言うことを聞かないのがダメなんだよ。……それを聞いて、当時の私がどう思ったかなんて覚えていない。きっと思い出せる日も来ない。  けれど、今の私が先輩に父親を否定されたことがひどく嬉しいことだけは確かだった。 「そうかもしれないです。私もお父さんも、きっとろくでもない」 「……なんで急に笑ってるんだよ、気持ち悪い」  どうやら、今の私は笑っているらしい。  いつか先輩がお酒を飲む姿を見て、新しいことに気付けたら、きっと愉快だろうと思うばかりだった。